医療・美容・アンチエイジングの各分野における幹細胞治療の科学的根拠

医療・美容・アンチエイジングの各分野における幹細胞治療の科学的根拠

幹細胞治療の科学的エビデンス総論

幹細胞治療は、再生医療として様々な疾患の治療や美容・アンチエイジングへの応用が期待されています。しかし、その有効性や安全性には分野ごとにエビデンス(科学的根拠)の質に差があり、慎重な評価が必要です。本稿では、最新の論文・文献に基づき、幹細胞エキソソーム点滴自己脂肪由来間葉系幹細胞による脳血管障害治療、および脂肪幹細胞を用いた医療・美容・アンチエイジング治療について、それぞれの有効性・リスクとエビデンスレベルを整理します。また、日本と海外におけるガイドライン・規制の違いも比較し、総合的な評価を行います。

幹細胞エキソソーム点滴療法の有効性と安全性

エキソソーム療法の概要: 幹細胞エキソソームとは、幹細胞(特に間葉系幹細胞:MSC)が分泌する微小な細胞外小胞で、タンパク質やRNAなどの情報を含み、他の細胞に働きかける作用があります ( Therapeutic Features and Updated Clinical Trials of Mesenchymal Stem Cell (MSC)-Derived Exosomes - PMC ) ( Exosomal therapy—a new frontier in regenerative medicine - PMC )。細胞自体を移植する代わりに、エキソソームを点滴投与(静脈投与)することで、拒絶反応や細胞が原因となる血栓などのリスクを減らしつつ幹細胞の効果を狙う療法として注目されています ( Therapeutic Features and Updated Clinical Trials of Mesenchymal Stem Cell (MSC)-Derived Exosomes - PMC ) ( Therapeutic Features and Updated Clinical Trials of Mesenchymal Stem Cell (MSC)-Derived Exosomes - PMC )。

有効性に関するエビデンス: エキソソーム療法は世界的に数多くの疾患領域で研究が進んでおり、2021年時点で77件の臨床試験が登録されています。そのうち11件が完了し、がん、神経変性疾患、血液疾患などでエキソソーム治療が診断・治療効果を示したとの報告があります ( Exosomal therapy—a new frontier in regenerative medicine - PMC ) ( Exosomal therapy—a new frontier in regenerative medicine - PMC )。例えば、免疫調節や組織再生を目的にMSC由来エキソソームを用いた研究では、難治性疾患に対する有望な結果が得られつつあります。一方で、美容・アンチエイジング分野(皮膚の老化や色素沈着、脱毛症など)については、エキソソームによる臨床試験はまだ報告されていません (Frontiers | Exosomes based advancements for application in medical aesthetics)。現在得られている効果のエビデンスの多くは前臨床研究(培養細胞や動物実験)や少数例の臨床研究であり、例えば創傷治癒の促進抗炎症・抗老化作用を示す結果が得られているものの (Frontiers | Exosomes based advancements for application in medical aesthetics) (Frontiers | Exosomes based advancements for application in medical aesthetics)、人を対象とした大規模な比較試験はこれからです。総じて、エキソソーム点滴の有効性に関するエビデンスレベルは現時点では低~中等度であり(主にPhase I/IIの初期臨床結果に基づく)、効果を断定するにはさらなる検証が必要です。

安全性に関するエビデンス: 幹細胞エキソソームは細胞を用いないため免疫拒絶反応や細胞塞栓のリスクが低いと考えられています ( Therapeutic Features and Updated Clinical Trials of Mesenchymal Stem Cell (MSC)-Derived Exosomes - PMC ) ( Therapeutic Features and Updated Clinical Trials of Mesenchymal Stem Cell (MSC)-Derived Exosomes - PMC )。実際、報告されている初期の臨床試験では重大な有害事象はほとんど認められていません ( A systematic review and meta‐analysis of clinical trials assessing safety and efficacy of human extracellular vesicle‐based therapy - PMC ) ( A systematic review and meta‐analysis of clinical trials assessing safety and efficacy of human extracellular vesicle‐based therapy - PMC )。例えば、難治性の肛門瘻に対する臍帯由来MSCエキソソームの局所投与では、5例中4例で瘻孔の改善がみられ、副作用も特に報告されませんでした ( A systematic review and meta‐analysis of clinical trials assessing safety and efficacy of human extracellular vesicle‐based therapy - PMC )。同様に、非クローン病患者の複雑瘻孔に対する胎盤由来MSCエキソソーム療法(11例)でも、安全性に問題はなく、有望な臨床アウトカムが得られたと報告されています ( A systematic review and meta‐analysis of clinical trials assessing safety and efficacy of human extracellular vesicle‐based therapy - PMC )。また、エキソソームは血液脳関門を通過できる可能性が示されており、中枢神経疾患における投与経路としても研究されています ( Exosomal therapy—a new frontier in regenerative medicine - PMC )。以上より、エキソソーム点滴の短期的な安全性は概ね良好と考えられます。ただし、製造過程でのウイルス・細菌汚染管理や、投与量・頻度の適正化など課題は残っており ( Exosomal therapy—a new frontier in regenerative medicine - PMC ) ( Exosomal therapy—a new frontier in regenerative medicine - PMC )、長期的な安全性(例:がんの発症リスクなど)についても今後の追跡が必要です。

エビデンスレベルの評価: 現段階ではエキソソーム点滴療法はエビデンスレベルIII程度(予備的な臨床研究段階)と評価できます。少数例の介入研究で有望な結果が報告されていますが、プラセボ対照のランダム化比較試験(RCT)はほとんどなく、適応疾患ごとに有効性を確認するためにはエビデンスの蓄積が求められます。

自己脂肪由来間葉系幹細胞による脳血管障害治療のエビデンス

治療概要: 自己脂肪由来間葉系幹細胞(AD-MSC)は、患者自身の脂肪組織から採取・培養された幹細胞で、神経細胞への分化誘導能や各種成長因子の分泌による神経保護・再生効果が期待されています ( The role of mesenchymal stem cell transplantation for ischemic stroke and recent research developments - PMC ) ( The role of mesenchymal stem cell transplantation for ischemic stroke and recent research developments - PMC )。脳血管障害(主に脳梗塞などの虚血性脳卒中)に対し、これらの細胞を点滴静注あるいは脳内に移植する臨床研究が進んでいます。

有効性に関するエビデンス: 前臨床段階では、AD-MSCが動物モデルの脳梗塞で運動機能や神経機能を改善するという多数の報告があり、効果は強く示唆されています ( Efficacy of adipose derived stem cells on functional and neurological improvement following ischemic stroke: a systematic review and meta-analysis - PMC ) ( Efficacy of adipose derived stem cells on functional and neurological improvement following ischemic stroke: a systematic review and meta-analysis - PMC )(※動物では有望だが、人での効果検証が課題)。臨床研究では、まず安全性確認を目的としたPhase I試験が報告されています。例えば2022年のTsung-Lang Chiuらの研究では、慢性期脳梗塞患者3名に自己脂肪由来幹細胞を立体定位下に脳内移植した結果、運動機能や日常生活動作が改善し、明らかな有害事象は認められませんでした ( The role of mesenchymal stem cell transplantation for ischemic stroke and recent research developments - PMC )。また、日本やスペインで行われた少数例のパイロット試験では、脳卒中後2週間以内にAD-MSCを点滴投与し経過を追跡しています。その一つであるAMASCIS試験(Phase IIa, スペイン)では、60歳以上の中等度~重度脳梗塞患者に対しAD-MSC静脈投与群とプラセボ群を比較しました ( Final Results of Allogeneic Adipose Tissue–Derived Mesenchymal Stem Cells in Acute Ischemic Stroke (AMASCIS): A Phase II, Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled, Single-Center, Pilot Clinical Trial - PMC ) ( Final Results of Allogeneic Adipose Tissue–Derived Mesenchymal Stem Cells in Acute Ischemic Stroke (AMASCIS): A Phase II, Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled, Single-Center, Pilot Clinical Trial - PMC )。24か月追跡の結果、AD-MSC投与は安全で重篤な副作用や腫瘍形成は認められず(詳細は後述) ( Final Results of Allogeneic Adipose Tissue–Derived Mesenchymal Stem Cells in Acute Ischemic Stroke (AMASCIS): A Phase II, Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled, Single-Center, Pilot Clinical Trial - PMC ) ( The role of mesenchymal stem cell transplantation for ischemic stroke and recent research developments - PMC )、神経学的機能スコア(NIHSS)の改善傾向が投与群で見られました ( Final Results of Allogeneic Adipose Tissue–Derived Mesenchymal Stem Cells in Acute Ischemic Stroke (AMASCIS): A Phase II, Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled, Single-Center, Pilot Clinical Trial - PMC )。しかし、症例数が少なく統計的有意差は得られず、有効性については結論できませんでした ( Final Results of Allogeneic Adipose Tissue–Derived Mesenchymal Stem Cells in Acute Ischemic Stroke (AMASCIS): A Phase II, Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled, Single-Center, Pilot Clinical Trial - PMC )。こうした小規模試験では一部ポジティブな所見があるものの、大規模RCTの結果はまだ出揃っていません。現在進行中の国際試験(例:日本で計画された急性期脳梗塞へのAD-MSC投与試験 ( The role of mesenchymal stem cell transplantation for ischemic stroke and recent research developments - PMC ))の成果が待たれています。

安全性に関するエビデンス: 自己由来の脂肪幹細胞を用いるため、免疫学的な拒絶反応のリスクは低く、安全性プロファイルは比較的良好です。上述の臨床研究でも、重大な有害事象は報告されていないケースがほとんどです ( The role of mesenchymal stem cell transplantation for ischemic stroke and recent research developments - PMC ) ( The role of mesenchymal stem cell transplantation for ischemic stroke and recent research developments - PMC )。特に急性期脳梗塞患者への静脈投与では、2年間の追跡で腫瘍発生も認められなかったことが確認されています ( The role of mesenchymal stem cell transplantation for ischemic stroke and recent research developments - PMC )。慢性期患者への脳内移植でも感染症や出血などの合併症は報告されず、安全に手技が行えることが示されています ( The role of mesenchymal stem cell transplantation for ischemic stroke and recent research developments - PMC ) ( The role of mesenchymal stem cell transplantation for ischemic stroke and recent research developments - PMC )。ただし、静脈投与した細胞の多くは肺などに一時的に滞留する可能性が指摘されており(いわゆる「肺フィルター」現象)、投与細胞数が過剰な場合の塞栓リスクや、培養過程での変異蓄積など理論的なリスクは皆無ではありません。現在までのデータでは安全性上の大きな懸念は認められていないものの、症例数が限られるため慎重な経過観察が必要です。

エビデンスレベルの評価: 脳血管障害に対する自己脂肪由来MSC療法のエビデンスレベルは、現時点でIIb程度(探索的臨床試験段階)といえます。少数ながらプラセボ対照試験も実施され、安全性は確認されつつありますが、有効性については「安全性目的の試験で改善傾向を認めた」程度であり ( Final Results of Allogeneic Adipose Tissue–Derived Mesenchymal Stem Cells in Acute Ischemic Stroke (AMASCIS): A Phase II, Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled, Single-Center, Pilot Clinical Trial - PMC )、エビデンスの質は中程度です。今後進行中の大規模RCT結果次第で、エビデンスレベルは引き上げられる可能性があります。

脂肪幹細胞を用いた治療の有効性とリスク(医療・美容・アンチエイジング)

脂肪由来幹細胞(ADSC)は、整形外科領域や自己免疫疾患、そして美容・アンチエイジング分野など幅広い領域で応用が試みられています。それぞれの分野における有効性(ベネフィット)リスクについて、主要なエビデンスを概観します。

エビデンスレベルの評価: 医療分野では疾患ごとにエビデンスレベルが異なります。Crohn病瘻孔に対する治療はレベルI(複数RCTで有効性確認)といえますが、それ以外の適応では概ねレベルII~III(初期的な臨床研究段階)です。美容・アンチエイジング分野については、有望な結果はあるものの科学的検証が十分でないためレベルIII以下でしょう。アンチエイジング目的の全身投与に至ってはレベルV(エビデンスなし)です。したがって、脂肪幹細胞を用いた治療全般のエビデンスレベルはピンからキリまで幅広いですが、多くの応用領域でエビデンスが不足している点に留意が必要です。

主要な最新研究から見る動向

近年の主要な学術誌(NatureNEJMThe Lancetなど)では、幹細胞治療に関する有望な結果とともに、課題や懸念も報告されています。以下にいくつかトピック別の動向をまとめます。

日本および海外のガイドライン・規制の比較

日本の規制(再生医療安全性確保法など): 日本では2014年に「再生医療等の安全性の確保等に関する法律(再生医療安全確保法:ASRM)」が施行され、再生医療等提供計画の届け出・審査制が導入されました (Japanese regulations on regenerative medicine are failing patients|News & Events | CiRA | Center for iPS Cell Research and Application, Kyoto University) (Japanese regulations on regenerative medicine are failing patients|News & Events | CiRA | Center for iPS Cell Research and Application, Kyoto University)。この法律では、リスクに応じて再生医療等を第1種(高リスク)~第3種(低リスク)に分類し、提供前に専門委員会の審査を経て厚生労働省に計画を提出することが義務付けられています (Difficulties in ensuring review quality performed by committees ...)。特徴的なのは、患者自身の細胞を用いる自家細胞療法(リスク中~低)に関しては、医薬品承認を経ずに臨床提供が可能となる点です (Japanese regulations on regenerative medicine are failing patients)。すなわち、一定の手続きを踏めばクリニック等で幹細胞治療を提供でき、患者から費用を徴収することも許容されています。その反面、有効性の確認は必須要件ではないため (Japanese regulations on regenerative medicine are failing patients|News & Events | CiRA | Center for iPS Cell Research and Application, Kyoto University)、科学的根拠が不十分なまま商業提供されるケースが生じうる制度設計になっています。実際、ASRM施行後、日本国内で3467件もの再生医療等提供計画が届け出られており、その中には国際的に見て「エビデンス不足ゆえ批判の対象となり得る治療」も含まれていたと報告されています (Japanese regulations on regenerative medicine are failing patients|News & Events | CiRA | Center for iPS Cell Research and Application, Kyoto University) (Japanese regulations on regenerative medicine are failing patients|News & Events | CiRA | Center for iPS Cell Research and Application, Kyoto University)。専門家からは、「科学的検証の欠如」「治療と研究の境界が曖昧」といった問題が指摘されており (Japanese regulations on regenerative medicine are failing patients|News & Events | CiRA | Center for iPS Cell Research and Application, Kyoto University)、患者が未承認治療と確立医療を見分けられず被害を被る懸念が示されています (Japanese regulations on regenerative medicine are failing patients|News & Events | CiRA | Center for iPS Cell Research and Application, Kyoto University) (Japanese regulations on regenerative medicine are failing patients|News & Events | CiRA | Center for iPS Cell Research and Application, Kyoto University)。一方、日本には医薬品医療機器等法(PMD法)に基づく再生医療等製品の承認制度もあり、こちらでは条件付き早期承認制度などを通じて治験で一定の有効性・安全性が示された製品が実用化されています(例:心不全向けのiPS由来細胞シートの条件付き承認など)。要するに、日本の制度は**(1) 医薬品としての承認ルート(2) 医療行為としての提供ルート**の二本立てになっており、後者については他国に比べ提供のハードルが低い反面、エビデンス確保が課題となっています。

海外(米国・欧州など)の規制: 米国では、幹細胞を使った治療の大半はFDA(食品医薬品局)の管轄下で「医薬品」や「生物製剤」として扱われます。患者自身の細胞であっても、酵素処理や培養増幅など「体外での操作が最小限を超える(more than minimally manipulated)」場合や、本来の体内機能と異なる用途に使う場合(非同種的用途)は、FDAの新薬承認プロセスを経なければなりません (Important Patient and Consumer Information About Regenerative ...)。したがって、脂肪由来幹細胞の点滴やエキソソーム製剤の投与などは基本的に臨床試験を通じた検証と承認が求められ、承認前に市販目的で提供することは禁止されています。近年、FDAは違法な幹細胞クリニックへの取り締まりを強化しており、幹細胞治療を標榜する業者への警告書や差し止め命令(永久差止命令)が執行されたケースもあります (Statement on stem cell clinic permanent injunction and ... - FDA) (Harms Linked to Unapproved Stem Cell Interventions Highlight ...)。例えば、無許可の臍帯血由来製品を販売し重篤な感染症事例を起こした業者に対し、FDAが警告を発しリコールさせた事例があります (FDA sends warning to company for marketing dangerous ...)。また、FDAは公式声明において患者に対し「幹細胞治療を受ける際はFDA承認または治験プロトコル下のものか確認するように」と喚起しています (continues to warn patients of the risk of unapproved stem cell therapy)。一方、ヨーロッパにおいても幹細胞治療は欧州医薬品庁(EMA)の下で厳格に規制されており、幹細胞を用いた製品は先進療法医薬品(ATMP)として分類されます。EMAは幹細胞製剤の承認に慎重ですが、前述のdarvadstrocelのように有効性が示されたものは承認されつつあります。欧州では逆に、日本のように未承認の幹細胞治療を医療行為として提供する抜け道は基本的に存在せず、「患者の治療機会を阻む」という批判「患者を守る」という安全策のバランスを巡って議論が続いています。

ガイドラインおよび学会見解: 国際幹細胞研究学会(ISSCR)や各国の医学会は、幹細胞治療の提供に関する倫理指針を出しています。ISSCRのガイドラインでは、十分な科学的根拠のない幹細胞治療を臨床提供すべきでないこと、患者には臨床試験に登録してもらいエビデンスを構築すべきことが謳われています。また、日本再生医療学会も「再生医療等提供計画の下であってもインフォームド・コンセントを徹底し、リスクと不確実性を十分説明すべき」としています。美容領域では、日本美容外科学会などが「幹細胞をうたう美容施術」に対し注意を促す声明を出した経緯もあります。規制の面では、エキソソーム製品は米国FDAではいまだ承認例が無く、化粧品用途で販売されているものも規制当局は問題視しています ( The Innovative and Evolving Landscape of Topical Exosome and Peptide Therapies: A Systematic Review of the Available Literature - PMC )。日本でもエキソソームを利用した施術は第3種再生医療等に該当しうるため、届出が必要です。

以上のように、日本と海外では幹細胞治療の提供体制や規制に大きな違いがあります。日本は患者への早期提供を重視する柔軟な制度である反面、エビデンス未確立の治療が行われるリスクがあり、海外(特に米EU)は安全性・有効性の確認を優先する慎重な制度である反面、患者が承認治療にアクセスするまで時間がかかる傾向があります。それぞれ長所短所があるものの、最終的には患者利益を最大化するため、エビデンスに基づいた適切な運用が求められます。

結論:総合評価と今後の展望

幹細胞治療は再生医療の柱として大きな可能性を秘めていますが、そのエビデンスレベルは分野や適応によって様々です。医療分野では一部にRCTで効果が確認された応用(例:脂肪由来MSCによる難治性瘻孔治療 ( Follow-up Study to Evaluate the Long-term Safety and Efficacy of Darvadstrocel (Mesenchymal Stem Cell Treatment) in Patients With Perianal Fistulizing Crohn’s Disease: ADMIRE-CD Phase 3 Randomized Controlled Trial - PMC ))もありますが、多くの疾患領域では初期臨床研究の段階であり、有効性の裏付けは限定的です。美容・アンチエイジング分野においても、育毛や皮膚再生で有望な報告は出ているものの ( Hair Regeneration Treatment Using Adipose-Derived Stem Cell Conditioned Medium: Follow-up With Trichograms - PMC ) ( The Innovative and Evolving Landscape of Topical Exosome and Peptide Therapies: A Systematic Review of the Available Literature - PMC )、プラセボ対照試験が不足しており、科学的証明には至っていません。一方、安全性については、自家細胞を用いる限り比較的良好であるものの、誤った適応や管理不備による重篤な有害事象のリスクが実際に報告されています (Vision Loss after Intravitreal Injection of Autologous “Stem Cells” for AMD)。規制面では、日本は審査プロセスはあるもののエビデンス要求が緩い提供が可能であるのに対し、海外は承認主義でエビデンス重視というスタンスの違いがあります (Japanese regulations on regenerative medicine are failing patients|News & Events | CiRA | Center for iPS Cell Research and Application, Kyoto University) (Important Patient and Consumer Information About Regenerative ...)。

総合的に、現時点で幹細胞治療が標準医療として確立しているのは限られた領域のみであり、それ以外は「有望だが証拠不十分」という段階です。エビデンスレベルの観点からは、多くの応用でLevel3(予備的研究)以下と評価せざるを得ません。したがって、患者に提供する際は現状のエビデンスと不確実性について十分説明し、研究と治療を混同しない姿勢が重要です。また、今後さらなる高品質な臨床試験の蓄積により、幹細胞治療のエビデンスレベルが引き上げられ、安全かつ有効な新しい医療・美容応用が実現することが期待されます。

参考文献: 最新の学術論文やレビューより引用。 ( Exosomal therapy—a new frontier in regenerative medicine - PMC ) (Frontiers | Exosomes based advancements for application in medical aesthetics) ( Final Results of Allogeneic Adipose Tissue–Derived Mesenchymal Stem Cells in Acute Ischemic Stroke (AMASCIS): A Phase II, Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled, Single-Center, Pilot Clinical Trial - PMC ) (Vision Loss after Intravitreal Injection of Autologous “Stem Cells” for AMD) (Japanese regulations on regenerative medicine are failing patients|News & Events | CiRA | Center for iPS Cell Research and Application, Kyoto University) ( Follow-up Study to Evaluate the Long-term Safety and Efficacy of Darvadstrocel (Mesenchymal Stem Cell Treatment) in Patients With Perianal Fistulizing Crohn’s Disease: ADMIRE-CD Phase 3 Randomized Controlled Trial - PMC )など