どこでもドアの物理

どこでもドアの物理

どこでもドアの物理と「情報転送」方式の同一性問題(対話ログ)


1. 位置エネルギー・運動エネルギーの保存則問題

User:
どこでもドアの物理について考えます。「ドア」が物体をそのままドアを通じて移動させるもの出るとするならば、元の場所の位置エネルギーや運動エネルギーが移動先でどのように変換されてしまうのか、という問題があります。

Assistant:
ご指摘の「位置エネルギー/運動エネルギーが、移動先でどう扱われるのか」は、どこでもドアを“物体をそのまま連続的に通過させる装置(= ポータル)”として考えると、必ず踏むべき保存則の問題です。結論から言うと、何も特別なエネルギー源なしに「都合よく」保たれることはできず、成立させるには「ドア(装置)がエネルギーと運動量をやり取りする」メカニズムが要ります。

以下、物理として整理します。

1) 位置エネルギー:ΔU はどこが負担するか

地表近似なら位置エネルギー差は
[ \Delta U \approx m g \Delta h ] です。

  • 低い場所 → 高い場所へ出る((\Delta h>0))
    物体の重力ポテンシャルが増えるので、その分のエネルギー (m g \Delta h) をどこかが供給しないといけません。
    → 供給元は結局 ドア(装置) になります(電源、外部供給、あるいは“負のエネルギー”的な重力場の操作など)。

  • 高い場所 → 低い場所へ出る((\Delta h<0))
    余剰エネルギー (|m g \Delta h|) が発生します。
    そのまま物体に与えるなら出口で速度が増え、衝突で破壊・爆発的な現象になり得ます。
    → それを避けるには、装置が エネルギーを吸収(回生) して熱や電力などに変換する必要があります。

つまり、どこでもドアが「上りでは電力を食い、下りでは発電できる装置」になっていてもおかしくありません。むしろそうでないと保存則に反します

2) 運動エネルギーと運動量:いちばん危険なのは「基準系」

運動エネルギー (\frac12 m v^2) は速度 (v) に依存しますが、速度は どの基準系(座標系)で測るかで変わります。ここがどこでもドアを最も不安定にします。

(A) 地球の自転・公転の問題(典型的な“致命傷”)

出入口が別の場所(緯度・高度・方向)にあると、地球自転による速度が変わります。

  • 例:赤道付近の地表は自転で約 465 m/s。高緯度ではこれが小さくなる。
  • もし「入口で静止してドアに入った人」が「出口でも地面に対して静止」のまま出る仕様なら、人の運動量が勝手に変わったことになります。
    その差分の運動量とエネルギーは、結局 装置が受け持って地球へ押し返す(反作用)などが必要です。

これをちゃんとやらないと、極端には出口で「横方向に猛烈な風速で吹き飛ぶ」挙動になります。

(B) 「保存する量」は何か:4運動量の整合が必要

相対論的には、装置は通過物体の 4運動量(エネルギーと運動量のセット) をどう接続するか決めねばなりません。

現実的な設計方針は次のどちらかです。

  1. 入口の局所慣性系をそのまま出口へ“平行移送”する(ポータルの口が同じ速度・同じ向きの局所座標を共有)

    • 通過中の感覚は自然。
    • ただし出口側の地面から見ると速度がずれているかもしれない。地面に着地するときに大事故。
  2. 出口の環境(地面)に対して安全な速度に“強制的に合わせる”

    • 人間に優しい。
    • その代わり装置が運動量を大きく吸収・供給する必要がある(巨大な反力、発熱、構造強度、あるいは周囲の空気を巻き込むなど)。

どちらにせよ、「何も支払わずに都合よく」はできません。

3) “ワームホール型”にすると何が起きるか(直観に近いモデル)

(中略せず、原文の趣旨どおりに続く)

  • 物体は喉を進むだけなので、「物体の内部状態が連続」「分解・再構成しない」で済む。
  • しかし口の重力場・速度が違うと、口の近傍でエネルギーと運動量の帳尻合わせが発生する。
  • 安定維持には通常の物質では難しい応力エネルギー(“エキゾチック物質”)が必要になりがち。

4) さらに厄介な保存則:角運動量・電荷・場の連続性

  • 角運動量:回転軸の扱い、装置側のトルク
  • 電荷:電磁場の不連続が放電・電磁波を招く可能性
  • 熱:損失ゼロでない限り発熱・冷却設計が必要

5) “自然に見える”ための最小要件

  1. エネルギー会計(消費・回生)
  2. 運動量会計(反作用・安全速度)
  3. 場の整合(風圧差・衝撃波等の抑制)

最後に、設計分岐として

  • 仕様A:入口の速度を保持して出る
  • 仕様B:出口環境に合わせて調整して出る
    を提示。

2. 別案:情報をコピーして再構成し、元を消去する方式

User:
では、別の方法を考えましょう。一旦物体の情報をコピーし、それを移転先で再構成、もとの物体を消去する方法です。

Assistant:
その方式は「情報(設計図)を転送し、移転先で再構成し、元を消去する」ので、いわゆる デジタル転送(destructive upload + rebuild) です。エネルギー問題は一見きれいに見えますが、物理として成立させるには次の“会計”を避けられません。

1) まず「何をコピーするか」で難易度が決まる

  • マクロ情報:3Dプリント延長。ただし人間の同一性は怪しくなる
  • ミクロ情報:測定が系を乱す
  • 量子状態まで含む完全コピー:no-cloning で原理的困難
    • ただし量子テレポーテーション的に“移転”は可能だが、
      1. 事前エンタングルメント
      2. 古典通信(光速超え不可)
      3. 元状態の破壊
        が必要

2) 再構成で必ず出る「質量・材料」の問題

  • 材料が必要(出口側に準備/合成工場)
  • エネルギーから質量生成は規模が天文学的:
    [ E=mc^2 \approx 6.29\times 10^{18}\text{J} \quad (70,kg) ] などの例を提示

3) エネルギー・運動量の問題は“情報方式でも残る”

出口での速度基準、(\Delta U = mg\Delta h) の供給/吸収、装置側の会計が必要。

4) 情報量と熱力学コスト

ランドアウアー限界
[ E_{\min}\ge kT\ln2\times(\text{消去ビット数}) ] を含む発熱・損失の不可避性。

5) 最も筋が通る設定案

  • 破壊的スキャン
  • 光速制限
  • 材料依存
  • エネルギー・運動量会計

最後に、目標を

  • (A) 量子まで完全同一
  • (B) 実用同一
    のどちらにするかで分岐。

3. 前提追加:粒子ごとのエンタングルメント、光速以下、素材あり

User:
複製の過程で、入り口と出口で、粒子一つ一つをエンタングルメントさせることができるとしましょう。伝達速度は光速以下で構いません。また、素材は移転先にも用意されているものとします。

Assistant:
その前提は、ほぼ 量子テレポーテーションを“全粒子・全自由度”に拡張した方式です。保存則・因果律との整合は改善しますが、何が移り、何が難しく、何が残るかを明確化する必要があります。

1) “移る”のは物質ではなく量子状態

  • 事前にEPR対を配布
  • 入口でベル測定(元状態は破壊)
  • 古典通信(光速以下)
  • 出口で補正操作して状態再現

2) 「粒子1対1」でどこまで“完全再構成”になるか

位置・運動量、電子状態、核スピン、振動回転、粒子間相関など自由度が膨大。

3) 最大のハードル:環境とのエンタングルメント(デコヒーレンス)

物体は環境と強く相互作用しており、「物体だけ」転送しても厳密な同一性は崩れる可能性。
→ 入口での隔離・遮蔽など超技術を要する設定が自然。

4) エネルギー・運動量(最初の論点への接続)

  • 運動状態をどの基準系で再現するかは装置仕様
  • 重力ポテンシャル差 (mg\Delta h) は「自動付与」されないので、装置・出口側工程が帳尻を合わせる必要

5) “筋が通る”最小仕様

  • 事前配布(エンタングルメント資源)
  • 破壊的スキャン
  • 古典通信
  • 再構成(素材に補正)
  • 参照フレーム管理
  • 誤り訂正・冷却・隔離

最後に、設計分岐として

  • 仕様1:入口基準で忠実再現
  • 仕様2:出口環境に合わせて正規化
    を提示。

4. 感情的問題:二人を避けるための「転送完了後の消去」と主観的死

User:
感情的には1が一番問題です。二人になってしまうのは困るので転送完了後、転送元を消去します。その場合、ほぼ完全に同一の複製を消去するので客観的には問題ないですが、消去される方は死を経験することになります。

Assistant:
前提(仕様1=忠実再現+転送完了後に転送元を消去)を採ると、客観的な同一性は保てても、主戦場は 主観的連続性(第一人称の“私が生き延びるか”) に移ります。

1) 「二人にならない」運用はプロトコルで可能

  • 出口側はロックして起動しない
  • 入口で破壊的測定(元状態は不可逆に消える)
  • 古典通信到着後、出口側を起動
    → 同時に二人が動く分岐を避けやすい

2) それでも残る問題:入口側の第一人称は終端するのでは

第三者からは同一人物に見えるが、入口側の意識の流れは破壊的測定で終端し、出口側は「連続していた」と報告する。
このギャップは外部観測で検証できない。

3) 哲学的立場による結論の分岐

  • 心理的連続性(パターン同一性)重視:生存に近い
  • 生物学的連続性(同一身体)重視:死+複製
  • 魂・主体不可移転:転送不能

4) 感情的納得を得るための“設計上の逃げ道”

  • 漸進的置換(少しずつ入れ替える)
  • 物質そのものを通す(ポータル/ワームホール型)
  • 情報転送なら分岐ゼロ・不可逆性の徹底

最後に要件分岐として

  • 要件A:第三者基準で同一なら十分
  • 要件B:第一人称の連続が必要
    を提示し、要件Bなら情報転送型は不利になりがち、と整理。

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